近年、CPUの発熱は大きくなっており、CPUクーラーに求められる冷却性能も高くなっている。特にハイエンドクラスのCPUは、冷却が不十分だとすぐに上限温度(Tjunction max、Tjmaxなどと呼ぶ)に到達してしまう。この現象は、CPUが自動オーバークロック機能を備えていることが原因だ。上限ぎりぎりまで発熱を許容する代わりに、その分CPUの性能を引き出している。
こうした事情から、動作中のCPU温度そのものが以前より高くなっている。CPU温度に余裕があればそれだけCPUの性能を引き出せるため、CPUクーラーの役割は高くなっていると言えるだろう。
一般的に、空冷式よりも水冷式のCPUクーラーの方が冷却性能は高く、高性能なCPUと組み合わせるのであれば水冷CPUクーラーの方が適している。しかし空冷CPUクーラーを選ぶ理由がなくなったわけではない。ミドルクラスのCPUであれば十分な冷却性能があり、製品価格も全体的に空冷クーラーの方が安い。パソコンの構成次第では、魅力的な選択肢となる。今回は3製品を紹介する。
目次
直線的なデザインの大型クーラー
Hyper 612 APEX(Cooler Master)
対応ソケット | Intel:LGA1851/1700/1200/1151/1150/1155/1156 AMD:Socket AM5/AM4 |
搭載ファン | 120mm×2 |
ファンの回転数 | 0~2400rpm±10%(PWM対応) |
ファンコネクター | 4ピン |
風圧 | 最大3.63mmH2O |
風量 | 最大75.2CFM |
騒音値 | 最大30dB(A) |
本体サイズ | 幅127×奥行き114×高さ159mm |
型番 | MAP-T6PN-225PK-R1 |
JANコード | 4719512154946 |
アスクコード | FN2447 |
フィンブロックを2基の120mmファンではさんだ構造のタワー型CPUクーラーだ。ヒートシンク、ファン共にトップカバーを備えており、直線的ですっきりしたデザインとなっている。LEDによるライティングには非対応だ。6本のヒートパイプを内蔵しており、高い冷却性能を備えている。
「Hyper 612 APEX」のユニークな点は、ファンの固定方法だ。一般的にタワー型CPUクーラーのファンはクリップかゴムブッシュで取り付けるが、本製品はファン側のレールをヒートシンク側のガイドに収めて固定する。ヒートシンクの上からスライドさせるため、マザーボードに取り付けた後でも着脱しやすい。さらに片方のファンは高さ調節も可能で、マザーボードのヒートシンクとの干渉を避けられるという大型モデルならではの工夫もある。
PCケース内での存在感もあり、落ち着いた雰囲気のPCを組みたい人にぴったりのモデルだ。
付属品の一覧(マニュアルを除く、以下同)。内容は固定用のリテンションとCPUグリス、ファン分岐ケーブルとシンプル。ファンが2基付属するモデルだが、マザーボードのCPUファン端子が1個しかなくても問題なく使用できる。
トップカバーに情報表示機能を搭載
AK400 DIGITAL PRO(DeepCool)
対応ソケット | Intel:LGA1851/1700/1200/1151/1150/1155 AMD:Socket AM5/AM4 |
搭載ファン | 120mm×1 |
ファンの回転数 | 500~1750rpm±10%(PWM対応) |
ファンコネクター | 4ピン |
風圧 | 最大2.91mmH2O |
風量 | 最大60.89CFM |
騒音値 | 最大25dB(A) |
本体サイズ | 幅126×奥行き97×高さ159mm |
型番 | R-AK400-BKAPMN-G |
JANコード | 4537694351058 |
アスクコード | FN2363 |
ヒートシンク、ファン共にオールブラックのタワー型CPUクーラー。トップカバーにデジタルディスプレイを備え、CPU使用率、CPU温度、CPU消費電力を表示できる。CPU温度によって温度計アイコンの色が変わるギミックもある。
トップカバーの端にはアドレサブルRGB LEDストリップを内蔵しており、ライティング効果も楽しめる。ただ、光るエリアは広くなく、ファンもLED非搭載なので、PCケース内全体を彩るというよりもワンポイントのデザインという位置付けだ。控えめなライティングが丁度良いと感じる人もいるだろう。
RGBファンとCPU温度表示機能を搭載
CNPS13X DS BLACK(ZALMAN)
対応ソケット | Intel:LGA1851/1700/1200/1151/1150/1155/1156 AMD:Socket AM5/AM4 |
搭載ファン | 120mm×1 |
ファンの回転数 | 600~2000rpm±10%(PWM対応) |
ファンコネクター | 4ピン |
風圧 | 最大2.01mmH2O |
風量 | 最大69.12CFM |
騒音値 | 最大29.7dB(A) |
本体サイズ | 幅135×奥行き79×高さ159mm |
型番 | CNPS13X DS BLACK |
JANコード | 8809213764370 |
アスクコード | FN2102 |
5本のヒートパイプを搭載した、オールブラックのタワー型CPUクーラー。「RDTH(Reverse Direct Touch heatpipes)」という特許を取得した機構を採用しており、CPU接触面のプレートからヒートパイプへ効率よく熱を伝えられるという。
トップカバーにCPU温度表示機能を備えている。「AK400 DIGITAL PRO」よりも表示項目は少ないが、RGBライティングの範囲はトップカバー全体と広くなっている。付属ファンもRGB LEDを搭載しており、ライティング効果は今回紹介する中で最も派手だ。付属ファンはデザインも特徴的で、ファンブレードの先端部分をつないで一体化したデザインの「Annularファン」となっている。
冷却性能と静音性をテスト
Ryzen 9 9900X3D相当のCPUを使用
CPUクーラーの性能には、冷却能力と静音性がある。よりCPU温度を下げられ、より静かな方が高性能と言ってよいだろう。発熱の大きいCPUを使い、紹介した3モデルの性能を計測した。
AMDのハイエンドCPU、Ryzen 9 9950X3Dを使用したところ、3モデル中2モデルが最大温度である95度に到達してしまったため、AMDの公開している「Ryzen Master ユーティリティ」で動作設定を変更し、Ryzen 9 9900X3D相当のCPUとして動作させてテストした。もちろん厳密には異なるが、コア数と電力設定を合わせたため発熱は近いものになっているはずだ。
AMD Ryzen 9 9950X3D
「Ryzen Master ユーティリティ」でRyzen 9 9900X3D相当の設定にしたところ。CCD0、CCD1を2コアずつ無効にし、PPTを162W、TDCを120A、EDCを180Aに変更した。
CPU以外のテスト環境は以下の通り。また、CPU温度は室温によっても変化する。テスト結果の数値はあくまで参考として捉えてほしい。
CPU | AMD Ryzen 9 9950X3D (Ryzen Masterでコア数を16>12、PPTを200W>162W、TDCを160A>120A、EDCを225A>180Aに変更) |
メモリー | AGI UD858 DDR5 TURBOJET RGB DDR5-7200 32GB(16GB×2) |
マザーボード | ASRock B650 Steel Legend WiFi |
SSD | AGI AI818 M.2 PCIe Gen4 SSD 1TB(AGI1T0G43AI818) |
グラフィックボード | なし |
PCケース | なし |
電源ユニット | Thermaltake TOUGHPOWER GT/0750W ATX3.1 |
OS | Windows 11 Home(24H2) 64ビット |
テスト時の室温は20度。CPUの負荷には「CINEBENCH 2024」(MAXON Computer)の「CPU(Multi Core)」テストを使用し、10分間の連続テストを実行した。CPU温度は「Ryzen Master」(AMD)の「Temperature」の値を使用した。PCケースには収めず、テストはベンチマーク台で行った。
CPUクーラーのファンはマザーボードのCPUファン端子に接続。マザーボードのファンコントロール機能はBIOSの設定画面で「AUTO」に設定した。「Hyper 612 APEX」は付属の分岐ケーブルを使い、1個のファン端子へ接続している。
冷却性能をテスト
仕様の違いがCPU温度に反映された
先述の通り、今回のテストではRyzen 9 9950X3DをRyzen 9 9900X3D相当の設定で動作させている。ただ、Hyper 612 APEXは本来の仕様でもきちんと冷却できていたため、そちらの結果もグラフに掲載した。製品名の後ろのかっこ内は設定を表し、200Wは本来の設定(以降「200W設定」と表記)、162WがRyzen 9 9900X3D相当の設定(以降「162W設定」と表記)となる。アイドル時のCPU温度はWindows 11が起動してから10分程度操作せずにCPU温度が落ち着いた状態。負荷時の温度はテストの10分目付近の数値を採用している。
CPU温度(℃) | アイドル時 | 負荷時 |
---|---|---|
Hyper 612 APEX (200W) |
42.8 | 78.6 |
Hyper 612 APEX (162W) |
44.0 | 72.7 |
AK400 DIGITAL PRO (200W) |
46.0 | 95.0 |
AK400 DIGITAL PRO (162W) |
48.9 | 85.1 |
CNPS13X DS BLACK (200W) |
53.0 | 95.0 |
CNPS13X DS BLACK (162W) |
44.8 | 80.1 |
Hyper 612 APEXの温度が一際低い結果になった。162W設定であれば、AK400 DIGITAL PROとCNPS13X DS BLACKも80度台としっかり冷やせている。
結果は、やはりヒートパイプの数が多くファンを2基搭載しているHyper 612 APEXが最もよく冷えた。200W設定でも負荷時に78.6度と、他2モデルの162W設定よりも低く抑えられた。ただ、テストのスコアは水冷CPUクーラー編の結果よりも若干低くなっており、見えないところで動作クロックの低下が起こっていた可能性がある。162W設定では72.7度とさらに低く、こちらは余裕をもって冷却できていると言える。
AK400 DIGITAL PROとCNPS13X DS BLACKは、共に200W設定では上限の95度に到達した。CNPS13X DS BLACKはアイドル時に53度と突出して高くなっている。数十分待ってもほぼ同じ温度だったためそのまま掲載しているが、本来は45度前後が妥当な温度だろう。一方、162W設定ではそれぞれ85.1度と80.1度。AK400 DIGITAL PROはヒートパイプが4本、CNPS13X DS BLACKは5本と差があることに加え、付属ファンの風量がCNPS13X DS BLACKの方が高い。製品スペックがそのまま結果に現れたと言ってよいだろう。
騒音値をテスト
アイドル時は横並びで静か
ファンの回転数を上げれば冷却性能は上がるが、その分動作音も大きくなる。CPUクーラーを評価するなら、静音性とのバランスも考慮すべきだろう。スペックにファンの動作音は記載されているが、実際に動作させてみないと分かりにくい部分もある。騒音計を使って計測していこう。
騒音計はサンワサプライの「CHE-SD1」を使用した。計測範囲は35~135dB(A)となっているが、30dB(A)まで表示できたためその数値を採用している。35dB未満は参考値としてほしい。もっとも、35dB未満は服の衣擦れでさえ影響を受けるレベルの静かさなので、PCケースに収めるとほぼ聞こえないという理解でよいだろう。騒音計はクーラーとほぼ同じ高さ、約20cmの距離に設置した。暗騒音は表示下限未満。テスト結果で下限を下回った場合は30dB(A)とした。
騒音値(dB(A)) | アイドル時 | 負荷時 |
---|---|---|
Hyper 612 APEX (200W) |
30.0 | 40.2 |
Hyper 612 APEX (162W) |
30.0 | 34.9 |
AK400 DIGITAL PRO (200W) |
30.9 | 35.4 |
AK400 DIGITAL PRO (162W) |
30.0 | 35.4 |
CNPS13X DS BLACK (200W) |
31.6 | 38.6 |
CNPS13X DS BLACK (162W) |
30.9 | 37.3 |
アイドル時はいずれも回転数が大きく落ち、騒音計の表示下限付近とほぼ無音だった。AK400 DIGITAL PROは静音ファンを搭載しているだけあり、100%の回転数で動作しても35.4dB(A)と非常に静か。Hyper 612 APEXはファンの数が多いため、最大値は40.2dB(A)と最も高かった。
結果は、アイドル時はどのモデルも30~31dB(A)とほぼ無音。負荷時は、200W設定の場合どのモデルもファンが100%の回転数で動作したため、これらが各モデルの最大値と考えてよいだろう。AK400 DIGITAL PROとCNPS13X DS BLACKは162W設定でも100%で動作していたため大きな違いはなかった。Hyper 612 APEXのみ162W設定では80%程度の回転数で動作し、その分騒音値も下がっていた。
ファンの回転数はファンコントロール機能を使うことで変更できる。しかしハイエンドクラスのCPUでは動作温度が高くなるため、空冷CPUクーラーでは負荷時は100%動作が基本になってしまう。その点、負荷時でも35.4dB(A)と静かなAK400 DIGITAL PROは静音性では優れていると言える。
空冷CPUクーラーでも上位CPUを使うことは可能
静音性では水冷よりも有利という面も
空冷CPUクーラーを3製品見てきた。今回テストで使用したRyzen 9 9950X3Dは発熱量が大きく、冷却能力が十分とは言えない場合もあった。やはりハイエンドクラスのCPUでは水冷CPUクーラーを選ぶのが安心だろう。一方、Ryzen 9 9900X3D相当の設定ではいずれのモデルでもしっかり冷やせており、使用するCPU次第では空冷CPUクーラーも選択肢になることが確認できた。
また、高性能な水冷CPUクーラーは大型のラジエーターを備えており、ファンも複数使用する。ファンは直接ノイズ源になるため、ファンの数が少なくポンプもない空冷CPUクーラーは基本的に水冷CPUクーラーよりも静かだ。ミドルクラスのCPUを組み合わせて静音PCを作る際は、空冷CPUクーラーの方が適している場合もあるだろう。
冷却性能だけを見るなら大型の水冷CPUクーラーの方が優れているが、空冷CPUクーラーの活躍の場がなくなったわけではない。PCケース内のインテリアとしても、水冷CPUクーラーとは違った存在感が好みという人もいるだろう。水冷、空冷にこだわらず、自分のPCに合ったCPUクーラーを選んでほしい。
(文=宮川 泰明、写真=渡辺 慎一郎)
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