
大規模イベントの映像運用を、もっと柔軟に、もっとシンプルに
京都市勧業館「みやこめっせ」で開催された大型イベント「歎異抄大学」。会場内の大型LEDビジョン、別会場への映像送出、オンライン配信、アーカイブ収録など、複数の映像出力と長距離伝送が求められる大規模イベントでありながら、現場は少人数での運用が前提となっていた。
この現場で導入されたのが、Vizrtのソフトウェア型ライブスイッチャー「TriCaster Mini S」と、「NDI」を活用したIPベースの映像制作システムだ。
従来のHDMI中心のワークフローから、NDIベースのワークフローへと移行することで、長距離伝送や複数出力への柔軟な対応、設営時間の短縮、そしてワンオペレーション時の負荷軽減を実現している。
HDMIベース運用で感じていた限界

大規模会場では、ステージからオペレーション卓まで100mを超える長距離伝送が必要となる
「以前はATEM Miniを中心に、HDMIベースで運用していました」
そう語るのは、浄土真宗 親鸞会 視聴覚部 主任の山本 哲志氏。歎異抄大学の初開催時から、映像・配信システムの設計および運用を一貫して担当してきた。
小規模な会場では、HDMIベースの構成でも大きな問題なく運用できていたという。しかし、イベント規模の拡大に伴い、会場演出や映像出力の数が増えるにつれて、従来の構成では対応が難しい場面も徐々に増えていった。
特に課題となっていたのが、ステージからオペレーション卓までの長距離配線、複数のLEDビジョンやサブ会場への映像送出、そして少人数運用時におけるオペレーションの負荷だった。
山本氏「HDMIベースだと、映像の流れが基本的に"1対1"で固定されてしまいます。出力先が増えるたびに分配や配線が複雑になり、何の映像がどこに出ているのかを、常に頭の中で整理していないと回らない状態でした」
現場では、後から出力先を追加したり、送る映像を切り替えたりといった変更が発生することも少なくない。そうした変化に柔軟に対応できる仕組みとして、山本氏が着目したのがNDIだった。
NDI(Network Device Interface)は、映像をネットワーク経由で伝送できるAV-over-IP技術だ。HDMIやSDIのように映像ソースごとに専用ケーブルを引き回すのではなく、ネットワーク上で映像を共有できる点が大きな特長となっている。
これにより、長距離伝送や複数出力への柔軟な対応、映像ルーティングの簡略化などが可能となり、大規模会場における映像制作ワークフローとの高い親和性を持っている。
Vizrt TriCaster Mini Sを中核にしたIPベース運用へ

Vizrt TriCaster Mini Sに、カメラ、プレゼンテーション資料、映像素材を集約
そこで導入されたのが、Vizrt社のソフトウェア型ライブスイッチャー「TriCaster Mini S」だ。
Windows PC上で動作するTriCasterシリーズ初のソフトウェア型ライブスイッチャーTriCaster Mini Sは、スイッチング、テロップ合成、映像再生、録画、配信までを1台のPCでまとめて扱えるのが特長だ。ノートPCと専用コントローラーを組み合わせた運用が可能で、設置場所やシステム構成の自由度も高い。
今回の現場では、複数台のPTZカメラ、登壇者のプレゼンテーション資料、事前に用意された映像素材、タイトルやテロップ用のグラフィックなどをTriCaster Mini Sへ集約。カメラ映像、スライド、VTR、グラフィックの切り替えを、1つのシステム上で完結できる構成とした。
また、PTZカメラの映像はNDIを使ってネットワーク経由で伝送。HDMIやSDIのように映像ソースごとにケーブルを引き回すのではなく、ネットワーク上に映像を載せ、必要な場所で呼び出すワークフローへと移行した。
NDIとPoEで、設営・撤収の負担を大きく軽減

NDI対応機器を活用することで、マルチカム構成をシンプルに拡張できる
NDIベースのワークフローに移行したことで、大きく変化したのが設営と撤収のしやすさだ。
PTZカメラやNDI対応コンバーターの多くは、PoE(Power over Ethernet)に対応している。PoE対応機器であれば、LANケーブル1本で映像信号の伝送に加え、カメラ制御や電源供給まで行うことが可能だ。カメラの設置場所ごとに電源を用意する必要がなくなるため、配線設計や現場作業の負担軽減にもつながる。
山本氏「歎異抄大学の設営は、前日朝8時スタートになることが多いのですが、以前のHDMIベースのワークフローでは、どうしても15時頃まで設営に時間がかかっていました。会場内の配線自体は比較的早く終わっていたのですが、オペ卓まわりの機器接続にかなり時間を取られていたんです。
TriCaster Mini Sを中核としたNDIベースの構成に切り替えてからは、状況が大きく変わりました。オペ卓まわりもスッキリしているので、昼前には設置が完了し、その後は動作確認や調整にしっかり時間を使えるようになりました。撤収も、ケーブルが少ない分とても早いですね」
配線を減らせるだけでなく、電源まわりやオペ卓周辺の構成まで含めてシンプルにできること。TriCaster Mini SとNDI、PoE対応機器の組み合わせは、大規模会場かつ少人数運用の現場で大きな効果を発揮している。
光ファイバーとProAVスイッチで、100m超の長距離伝送にも対応

ステージ側とオペレーション卓側を光ファイバーで接続し、長距離でも安定した映像伝送を実現
今回の会場では、ステージからオペレーション卓までの距離が100〜130m超となる場面もあった。
そこで、ステージ側とオペ卓側それぞれにネットワークスイッチを配置し、両者を光ファイバーで接続。SDI延長や複数系統のケーブルを引き回す必要を抑えながら、距離による制約を受けにくい長距離伝送を実現している。
ネットワークの中核には、NETGEARのProAV向けスイッチ「M4250シリーズ」を採用。NDIやAV-over-IP向けに最適化されたプロファイルを活用することで、マルチキャスト設定や帯域管理、安定したNDI伝送を、専門的なネットワーク知識に頼りすぎず構築できている。
NDIベースのシステムでは、ネットワーク設計そのものが映像品質に直結する。今回の事例では、TriCaster Mini SとNDI対応機器に加え、ProAV向けネットワークスイッチを組み合わせることで、大規模会場でも安定したIPベースの映像制作環境を構築している。
会場演出、映像送出、配信、収録を同時に制御
今回のイベントでは、メインステージの大型LEDビジョン、会場内の別スペース、YouTubeでの限定ライブ配信、アーカイブ収録用映像など、複数の出力先へ同時に映像を届ける必要があった。
TriCaster Mini Sを起点に映像を一元管理することで、同じ映像を複数の出力先へ送るだけでなく、出力先ごとに異なる映像を表示するといった制御も可能になった。
登壇者のプレゼンテーション資料、事前制作映像、ライブカメラ映像など、状況に応じて切り替えが必要な場面でも、TriCaster Mini S上で素材を集約しているため、少人数やワンオペでも全体を把握しやすい。
TriCasterシリーズの「DDR機能」を活用すれば、映像と音声をセットで再生できるため、VTRを含む演出の切り替えにもスムーズに対応できる。複数の入力・出力・演出要素を1つのシステム上で扱える点は、TriCaster Mini Sを中核に据えた大きなメリットとなっている。
少人数運用でも、安定した映像オペレーションを実現

入力・出力・演出を一元管理することで、少人数でも把握しやすい運用環境を構築
TriCaster Mini S導入後、山本氏が特に大きな成果として挙げるのは、「今までやってきたことを、ちゃんと失敗せずにできるようになったこと」だという。
出力の切り替え、DDRによる映像・音声管理、マクロによる操作の簡略化。それらが積み重なり、ワンオペでも落ち着いて判断できる余裕が生まれた。
山本氏「以前は常に次の操作を考えて気を張っていましたが、今は一呼吸おいて対応できます。現場で焦らず、さまざまな対応を同時進行でできるようになったのは、本当に大きな変化となりました」
今回のシステムは、大規模イベントに限らず、複数出力が必要な企業イベント、教育機関での配信、地域イベント、少人数でのライブ制作など、さまざまな現場に応用できる可能性を持っている。
"少ない人手でも、確実に映像を届けたい"。そうした現場において、TriCaster Mini SとNDIを活用したIPベースのライブ制作環境は、新たな選択肢となるだろう。
採用製品のご紹介
- Vizrt社 概要
- Vizrtは、コンテンツクリエイター向けのリアルタイムグラフィックスおよびライブプロダクションソリューションをリードする企業です。ニュース、スポーツ、放送、教育、エンターテインメント、ライブイベント、デジタルメディア、広告といったビデオ関連の幅広い分野で、革新的なストーリーテリングのワークフローを提供してきました。Vizrtは、ビデオコンテンツの制作と共有方法の定義・再構築にも尽力しています。
- メーカーウェブサイト:https://www.vizrt.com/
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